パチンコ業界は、業界全体の低迷が続いているのに本当にやらなければならないことにはなかなか手をつけていない、という失策が多い。
たとえば、パチンコ業界が「ネットパチンコ」に真剣に取り組めなかったのは完全に手落ちであると思う。
現在、競馬や競輪などの公営ギャンブルにおいて「オンラインで賭けられる」というのは基本中の基本となっているのだが、パチンコ業界はこの「オンラインで賭けられる」ということに、しっかりと手をつけることができていない。
かつて、アミューズ運営が「遠隔操作で実機が打てるネットパチンコ」というサービスを提供した歴史こそあるものの、これは2019年にサービスが終了していて、その後、パチンコ業界にネットパチンコに関する動きはなかった。
その結果、「ネットパチンコ」の可能性の開拓と定着よりも先に、「オンラインカジノで実機のパチンコが打てる」という「オンラインパチンコ」に先手を打たれてしまった。
「オンラインで発生したかもしれない顧客」と、その利ザヤをすべてオンラインカジノに奪われてしまっているのが、パチンコ業界の現状だろう。
なお、あたしが使っている「ネットパチンコ」という単語は、「もし日本のパチンコ業界がインターネットでパチンコが打てる未来を作っていた場合にあったかもしれないパチンコ」を指す言葉であり、「実在しないユートピアパチンコ」を意味している造語だ。
そして、「オンラインパチンコ」は「オンカジで打つことができるパチンコ」であり、こちらは「実在するパチンコ」である。
それぞれの単語の定義を理解してもらったうえで、今回は、日本のパチンコ業界がインターネット展開で遅れをとってしまった理由や、オンラインパチンコの仕組みとその違法性などについて解説していけたらと思う。
三店方式が日本のネットパチンコの可能性を閉ざした
日本のパチンコ業界が「ネットパチンコ」という未来を切り開けなかった理由としては、そもそもパチンコが「三店方式」という面倒な仕組みを採用しているから、ということが考えられるだろう。
そして、パチンコ業界が「三店方式」をとっている限り、パチンコ業界に「ネットパチンコ」の領域が開かれる希望はかなり薄いだろう、というのがあたしの見立てである。
当たり前のように「合法」でパチンコを遊んでいるとついつい忘れがちなことだが、実はパチンコというのは、競馬や競輪といった「公営ギャンブル」のような「国家に許可されたギャンブル」ではない。
というより、パチンコは法律上は「ギャンブル」ですらなく「遊戯」であり、ジャンルとしては「ゲームセンターのゲーム」などと同じであって、そこにもし換金という行為が発生した場合は「違法」となる。
この「違法性」を回避して「遊戯でありながらの換金」という不可能を可能にしたシステムこそが、言わずとしれたパチンコの「三店方式」だ。
三店方式というパチンコ玉を現金化するための苦肉の策
三店方式とはパチンコの客が、パチンコ店、換金所、問屋の三つの業者に「特殊景品」を経由させることで、獲得したパチンコ玉を最終的に現金に換えることを可能にした循環システムだ。
パチンコ店は、パチンコの客とは「景品」を交換することしかできず、「パチンコ玉」と「現金」を交換することは違法であり、できない。
そこで編み出されたのが「特殊景品」であり、この「特殊景品」を「パチンコ店→客→換金所→問屋→パチンコ店→客…」という循環で交換することで「換金」を可能にしたのが、三店方式になる。
パチンコ店は「パチンコ玉と特殊景品」を客と交換し、客は「特殊景品と現金」を換金所と交換し、換金所は「特殊景品と現金」を問屋と交換し、問屋は「特殊景品と現金」をパチンコ店と交換する。そして、パチンコ店は、客にパチンコ玉を提供し、ひとつの循環が完成する。
パチンコは「遊戯」の結果として「景品」が出るまでは「ゲームセンター」と同じである。「客の手に渡った特殊景品」については、客の手に渡った段階でもはや「パチンコ店」とは関係を持たなくなる。
だから、その「特殊景品」をパチンコ店から出た客がどう扱おうと、パチンコ店はその責任を持つ必要がない。
交換した特殊景品を捨てようが保管しようが勝手だし、「客に換金所に持ってかれて換金されようがパチンコ店は知ったことではない」ということにもなり、ここで「遊戯による換金の違法性」が回避されるという仕組みだ。
パチンコという「遊戯」にはこういったネジレがあり、そのうえでギャンブルではないのに合法的な「換金」が発生している。
そして、この「苦肉の策」によって発生した「ネジレ」によって、あたしは日本のパチンコ業界が「ネットパチンコ」の展開を作れず二の足を踏んでいる、とみている。
インターネット上で三店方式を成立させる面倒くささ
三店方式は「特殊景品」という「具体的なモノ」がないと換金できないシステムであるため、インターネット上で三店方式を成立させるには、「具体的なモノ」である「特殊景品」の存在が今度は邪魔になってしまう。
考えられる方法としては、「オンラインUFOキャッチャー」のシステムを導入するというのが挙げられる。
その方法は、「ネット上で実機を打って獲得したパチンコ玉」の景品を、「特殊景品の配送」という形で自宅に送ってもらい(交換し)、その「特殊景品」をさらに「換金所」に持っていくなり郵送するなりして交換して「換金」をする、というものだ。
しかしこの方法は、パチンコ運営側からしても、パチンコ客からしても、書いただけで「めんどくさい!」と叫びたくなるような、あまりにまわりくどい方法であると言わざるをえない。
これが「オンラインUFOキャチャー」であれば、「商品」が交換されて配送されるだけで終わるのだが、パチンコの最終目的は「商品」を受け取ることではない。ここに「めんどくささ」が発生する。
パチンコ業界が「ネットパチンコ」に真剣に向き合うことができなかったのは、三店方式を採用している限りこのめんどくささを回避することができないためであり、また、客としてもそんなめんどくささを感じてまでパチンコを打つくらいなら実店舗に直接行って交換をしたい、という判断をしたためだろう。
アミューズが運営したネットパチンコが定着せず2019年にサービス提供が終了したのも、この理由が大きいのではないか、とあたしは睨んでいる。
「特殊景品」という具体的なモノがある限り、日本のパチンコ業界にネットパチンコが定着する未来は考えにくいだろう。これはパチンコ業界の努力というより、根本が歪んだシステムの問題である。
オンラインカジノがオンラインパチンコを成立させられた理由
海外に拠点を持つオンラインカジノが「実機で打てるオンラインパチンコ」を簡単に成立させることができた理由は、海外のオンラインカジノはパチンコを「遊戯」ではなくてダイレクトに「ギャンブル」として扱えたからだろう、とあたしは考えている。
三店方式というのは、あくまで「日本国内でパチンコで遊びながら合法的に換金するためのシステム」でしかなく、海外拠点のオンラインカジノからすると、そんなまわりくどい仕組みを採用する必要はまったくない。
海外拠点のオンラインカジノの運営は、日本の賭博法や風営法の影響を受けないので、パチンコを「ギャンブル」として扱えてしまうし、「特殊景品」という媒介をすっ飛ばして「勝利金を即現金化する」というギャンブル一般の換金が可能になる、というワケだね。
「ネットパチンコ」での現金化の煩雑な手続きを見てきたあとだと、「オンラインパチンコ」の現金化は、運営にとっても顧客にとってもそれぞれにきわめてシンプルでスムーズだ。
日本のパチンコ業界が特殊景品をめぐる三店方式でグズグズしているうちに、海外のオンラインカジノ業界がトップスピードでオンラインパチンコの領域を開拓していったのは、ある意味当然であるといえる。
オンラインパチンコで遊ぶこと自体に違法性が発生する
しかし、最大の問題は「オンラインパチンコで遊ぶということ自体」が日本人にとっては賭博であり「違法」であるということだ。
賭博法や風営法が適応されないのは、あくまで「海外に拠点をおくオンラインカジノの運営」であって、日本国内に住む人間は、日本国の法律である賭博法や風営法から逃れることができない。
日本でパチンコを打ち換金する場合は三店方式という離れ業のおかげで「遊戯」で済ますことができるが、オンラインパチンコを打つ場合は避けようもなく「遊戯」ではなくて「ギャンブル」になってしまう。
日本では競馬、競輪、競艇、オートレースなどの「公営ギャンブル」と、スポーツくじ、宝くじ以外の「ギャンブル」は違法であるため、「遊戯」でなくなったパチンコである「オンラインカジノのオンラインパチンコ」は、ゴリゴリの違法ということになってしまう。
日本人というのは、「インターネット上でのパチンコ」という領域においては、国内では三店方式によって「ネットパチンコ」という「未来」を奪われていると同時に、「オンラインパチンコ」においては違法性という意味で「現在」が侵犯されているという点で、ある種の「がんじがらめ」の状態にあるといえる。
「ネットパチンコ」には期待できず、「オンラインパチンコ」を打つためには法を犯すしかない、というのが、われわれ日本人パチンカスの宿命であり、現在はその宿命を覆すことはできそうにない。
「パチンコというジャンルはインターネットという場所に移行するやいなや必ずジレンマが発生するジャンルである」ということが「オンラインパチンコ」の登場と定着によって明らかになった、ということが、ひとまずいえるのではないだろうか。
ネットパチンコとオンラインパチンコまとめ
- 三店方式がある限りネットパチンコは定着しない
- オンラインパチンコは三店方式を逃れている
- オンラインパチンコを打つこと自体が違法である
以上が、「ネットパチンコ(日本のインターネットパチンコ)」と「オンラインパチンコ(海外オンラインカジノのインターネットパチンコ)」に関するまとめになる。
「インターネットで遊べる実機」という問題は、日本のパチンコ業界の「三店方式」というシステムの限界をあぶりだすことが興味深いし、「三店方式」から逃れているオンラインパチンコがどこまでいっても違法であるという限界が見えてくる点も面白い、とあたしは考えている。
パチンコが「ギャンブル」ではなくあくまで「遊戯」である以上、パチンカスという人種は定義としては「ギャンブラー」ではない。パチンコ最強の人間に与えられる称号は「ギャンブル王」ではなくて「遊戯王」が正しい、ということになるだろう。
実機で遊べるオンラインパチンコは、「遊戯王」にしかなれない日本人が「ギャンブル王」になれる数少ない道ではあるのだけど、それは違法性が絶対に避けられない「闇のゲーム」であるということは、ゆめゆめ忘れないようにしたい。